はねる髪をどうにかしたかった話

私の髪はいつも左側だけはねる。右側は大人しく輪郭に沿うのに、左側の毛先が顔の外側にいってしまうのだ。どうも、つむじが巻いている方向の勢いがそのまま毛先に表れるらしい。電力とかにならんのか、その力。

一本、一本が太く、硬い私の髪質は美容院泣かせだった。でも、ショートカットがとびきり上手な美容院さんがいて、私はいつもその人に切ってもらっていた。

指名料も合わせると中々な金額だけど、硬い髪でもちゃんと形がつくように、普通の人より長めにパーマを当ててくれたり、重い髪を少しでも軽やかな感じに見せようとカラーを調合してくれたり、それはそれは親身にこのハネと付き合ってくれた。大変、満足していた。それでも1ヶ月もして髪が伸びてくるとピンっとある日左側がはねる。

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「何だよ、また切ってやる」とそんな攻防戦を6年ほど続けた三十代手前、ひょんなきっかけで転職しなければならなくなった。前よりうんと楽な職場だが、給料の手取りが25万ほどあったのが15万になってしまった。「ウソ、私の年収低すぎ」というフレーズが頭をよぎる。とてもじゃないが、今まで通りに美容院には通えない。万事休す。髪のはねの勢いもますます増すかと思われた。

「いやいや、仕事があるだけマシ」「ここは田舎なんだし生活もやれる、いける、ぜんぜんおわってなんかないヨ」と自分で自分を励ましつつやっていたが、とうとう誤魔化しきれないほどショートカットだった髪が伸び、肩につくほどになる。無論、左側は跳ねている。やけっぱちひなった私はこれまた近所のスーパーのなかにある1000円カットに足を踏み入れた。自動ドアをくぐるとファミマの親戚みたいなチャララ音がなり、自販機で先に金を払う。「担当」などという概念はないので、たまたま手があいた人が私の髪を切ってくれる。

半年ほどほっといた髪がとにかく重く感じていて、席につくなり私は「とにかく髪をすいて軽くしてくれ」とお願いした。そしたら中々、「かしこまりましと」と言いやがらない。私の髪を櫛分けながら口のなかで何かもごもご言っている。その時髪を切ってくれたのは四十代くらいの男性でしゃべる時、あんまり口を開かない人だった。多分、「いらっしゃいませ」と言っているのだけど、「…しゃせ…」と聞こえるような人だった。

「えー。もう一回言った方が良いのかな」と思った矢先突然鏡ごしに目を合わせてきてキッパリ言った。「すかない方がいいです」と。

あまりにキッパリこちらの要望を切るものだから、勢いに負けて任せてしまった。男性は本当にほとんどすくことなく、傷んだ毛先を切り揃えた。仕上がりは例えるとしたら時代劇の出家した女?みたいななんだか奥ゆかしい感じになった。

千円だしこんなもんだろと思って帰ったが後になってから分かった。この髪型にしてからはねないのだ、左側が。

彼のハサミはとても良い音していた。良く手入れしてあるハサミなんだるう。パーマもかけなくなって傷みもなくなり、これはこれで、とても快適に過ごしている。